TAP DANCE LOGO
INSTRUCTORS
STUDIO : 戸塚スタジオ
NETWORK
SCHEDULE
EVENTS
COLUMNS
DANCE TEAMS
LINKS
OUR MASTER : 佐々木 隆子
COLUMNS

Vol.1271 気になる和製ミュージカル映画「アスファルト・ガール」
 東京都内にある名画座神保町シアター、ラピュタ阿佐ヶ谷、渋谷シネマヴェーラ等で年に1回は開催される和製ミュージカル映画特集。
 東宝映画「君も出世が出来る」、ひばり・チエミ・いずみの三人娘映画、井上梅次監督の同じく三人娘映画等、どの名画座でもだいたい同じ様な作品がならぶのが現状でありますが、そんな中いつも気になっていながらなかなか観るチャンスの無かった大映映画「アスファルト・ガール」(1964)がまさかのDVD化。
 すぐに購入しました。
 「20世紀FOX映画『回転木馬』(1955)の振付師、ロッド・アレクサンダー氏を招いての製作」というのが最大のセールス・ポイント。
 そして、主演の大映女優中田康子さんは、ナショナル・タップ・デーの第1回目にゲスト出演された方。
 どんなキャリアの方かはコラムVol.853をご覧下さいね。
 1964年、東宝の大作ミュージカル映画「君も出世が出来る」を観て、ミュージカル映画に刺激をうけた大映映画の永田雅一社長。
 「ちみ(君い)、うちでもミュージカル映画をつくらにゃあかんよ!」と言ったかどうかは分かりませんが、ミュージカル製作をゼロからスタートしたあたりは永田社長らしい。
 戦後の日本において、初めて本場アメリカで、アカデミー賞のオスカー像を手にしたお方ですからね。
 ただ、永田雅一社長や大映映画の評伝によると、大映社内ではこの企画に批判的な社員や映画館主がとにかく多かったそうです。まず、日本ではミュージカル映画にお客が入らない、次に中田さんがお客を呼べない女優だっただけでなく、社長の愛人だったから。一部には社長の、中田さんとの手切れ金がわりの作品と認識した社員も多かったといいます。
 色々あるものですねぇ。

 その程度の情報だけでわざわざDVDを購入したので封を開けるまでは心配。
 「つまらなかったらどうしよう?」と、いつになく弱気な私。
 DVDをデッキにセットしても中々行けない本編再生。
 取り合えず予告編から観るか。
 《映画は大映》という文字がドーンと現れる!
 次に、暗闇の中大きな机を前に着席したひとりの男性の姿が浮かびます。
 このお方が永田雅一社長です。
 ついBGMを入れたくなるような独特の雰囲気があります。
 照明がつくとそこは社長室のセットです。何故セットかって?机の上が綺麗すぎてインチキくさい!
 そして永田社長、この作品に対する意気込みを語り始めます。
 永田ラッパと呼ばれた演説のイメージはなくて、意外と静かに喋ります。ただ、なに弁だかの訛りが多少気になります。
 一番たまげたのが  「演出には島くんを。振付にはロッド・アレクサンダーくんを」とか。
 島耕作監督は大映専属の監督だから「島くん」で良いとしても、アメリカから招聘した振付師を「ロッド・アレクサンダーくん」は不味いのでは?おまけにロッドのアクセントが変でした。
 島耕作監督は、かつて大映では珍しかった特撮映画「宇宙人東京に現わる」を担当させられた事もあります。
 永田社長から「ちみ(君い)、必ず傑作を撮ってくれたまえよ!」と言われたかどうかは分かりませんが、多分信頼されていた監督なのでしょう。ただ、中田さんのインタピューによると、島監督はドラマの部分だけで、あとは撮影の3ヶ月前からアレクサンダー氏がミュージカル場面の稽古を始めたとあります。
 何だかんだケチをつけ、ゲラゲラ笑いながら4〜5回は繰り返し観てしまいましたよ、この予告編。

 さあ、勇気を出して本編を再生してみよう。
 夜の東京を歩く赤いワンピースにピンクの靴の女性の美しい足をカメラが追う大人っぽいタイトル・バックが斬新。
 アスファルト・ガールとはコールガールの事らしいのですが、ミュージカル映画の主人公にコールガールを持ってきたり、病気にしたり、事故死させたりする夢の無さが昔の日本映画のダメなところですね。設定やセリフが辛いところ。
 もとい。
 中田さんを含めた7人のコールガールが、全員別々の色のワンピースを着ているのも流石ですね。
 ただ、このコールガール達のナンバー、彼女達の雇い主やヒモの男達のダンス・ナンバー、中田さんを中心にしたホーム・パーティのナンバーは意外に平凡で、
 「ロッドくん頼むよ!」と言いたくなる程度の出来。
 中田さん以上にスターだった尾藤イサオさんが生かされていないのも残念。
 作品全体に照明が暗いのは大映映画の特徴なので仕方ありませんがね。
 トランペットのサド・ジョーンズをフューチャーしたピアニストのローランド・ハナ・カルテットの演奏場面は物足りなさはあるものの私は嬉しかったです。
 私が注目したのが以下の2曲。ひとつ目は、中田さんと恋人役坂本博士さんのビルの屋上庭園でのデュエット・ナンバー。軽くタップのステップも出てくるのですが、ダンスが素人くさい坂本さんを上手く踊らせているのはアレクサンダー氏の手柄。センスの良さを感じる振付でした。
 ふたつ目が、横浜の波止場で見せる中田さんと靴磨きの男性2人によるダンス・ナンバーが素晴らしい。宝塚や日劇で踊っていた中田さんには、ロッド・アレクサンダー氏の創作力を掻き立てる実力や魅力がそなわっていた様です。実に垢抜けた振付にビックリ。踊る3人をしっかり追うカメラ・ワークも嬉しい。どちらも音楽のアレンジがハリウッド・ミュージカル並みに本格的なものでした。
 いやあ、日本映画にこんな見事なダンス・ナンバーがあったなんて!
 非常に得した気分になりました。

 現在、大映映画の権利は全て角川映画?角川書店のものなので、この様な作品のDVD化に踏みきれたのです。でも「DVDなんて高くて買えないわ!」という方は、名画座やテレビの衛星放送に登場した際にはぜひご覧下さいね。
 今回は「アスファルト・ガール」を取り上げました。

天野 俊哉




Copyright 2005 Y's Tap Dance Party. All rights reserved.